豊かな社会になると人の心が変わる?


お盆の間、テレビをつければ、あおり運転の報道ばかりで
うんざりした。
ああいう危険な運転をする容疑者に、当然怒りは感じた。

でも、同時にテレビを見ているこちら側と容疑者側を
単純に全く別物だと考えるような報道の仕方に違和感を覚えた。

「社会が豊かになると、人の心が貧しくなる」

佐々木正美という児童精神科医の先生の話が好きで、
その人の書かれている本をよく読む。

この話は、「子どもへのまなざし」という本に出てきた。
文明の発達と物の豊かさの代償として、
わたしたちは自然環境を破壊してきた。
緑が少なくなって、空気は汚れ、最近では海洋汚染の問題もある。

文明は、確実に自然環境を破壊しながら進歩してきた。
そして、破壊しているのは自然だけではない。
人の心も破壊してきたという。

驚くべきことだが、この本を読むと、「ああ、書かれてある通りだな」
と思うことだらけだ。

便利な生活をするようになると、わたしたちは欲望をがまんする習慣が
なくなる。
全自動洗濯機。この本が書かれたとき(1998年頃)は、全自動と言っても
脱水までだった。
佐々木先生は、たとえ話として、脱水のつぎは「この洗濯物を乾かしてくれると、もっと便利なのに」と人の気持ちはなっていくと言われている。
まさに現実となり、今では、乾燥機能つきの洗濯機も発売されている。

洗濯機に限らず、自動車でもビールでも、いろんなものが、
すぐに新しい製品となってでてくる。

人は欲望を抑える必要がなくなり、抑えることがどんどん下手になる。
そして、モノへの欲望ががまんできなくなるだけでなく、
人との関係でもがまんすることができなくなる。

あおり運転の報道を見ていて、この本に書かれている内容を思い出した。
ひとごとのように思っているけれど、現代人であるわたしも
昔の人より、ずっとがまんすることが苦手になっているに違いない。

だからといって、現代人全てがあおり運転をするようなるとは思わないが、
イライラが蔓延する社会になってきており、それでも人は便利さを追求し続けている。
便利の裏にはそういう危険が伴っていることを忘れてはいけない。

佐々木先生は、豊かな社会を批判しているわけではないと思う。
そういう便利さのマイナスの面を知っているのと、知らずにいるのとでは
人の気持ちの持ちようが違う。
きっと、そんなつもりで書かれたのだと思う。

はじめて、佐々木先生の本を読んだとき、書かれている内容をよみ、
いろんな家族やお子さんの悩みに寄り添ってきたんだなというのを実感した。
ひとつひとつの悩みに心を込めて答えられていて、素敵な先生だなと思い、
気づけば、いろいろ調べていた。

「ささき まさよし」かと思ったけど、「ささき まさみ」なんだな。
わたしのおじいちゃん世代くらいだけど、ちょっと可愛い名前だな・・とか。

顔写真を見ては、優しそう。こんな先生にならどんな子育ての悩みでもできそう・・とか。

だけど、わたしが先生の存在を知ったときには、
1年半くらい前に亡くなられていて、お会いしたことはないけれど、
すごくショックだった。
こんな素敵な方が、自分が知る前に亡くなられていたんだなと。

でも、先生が本に書かれた内容は普遍的なことだと思い、
活動中の絵本ボランティアでも、常に意識している。
微力だけれど、先生の素敵な「子どもへのまなざし」を
わたしも子どもたちに対して持ち続けたい。

子どもへのまなざし [ 佐々木正美 ]

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